『朝日一家の挑戦状』を振り返って

はらぺこペンギン!第19回公演『朝日一家の挑戦状』は2日前の日曜日に無事幕を下ろしました。従来、BHUやゲオグランデに関しては終演後にいろいろと制作裏話みたいなことを書いてきましたが(全部消えちゃいましたが)役者として客演した舞台について深く書くことはありませんでした。今回はとても素敵な劇場に立ち、素敵な作品に出させていただいたこともあり、これをきっかけに客演した舞台についても私なりに振り返ってみたいと思います。これを読んだ「普段は滅多に小劇場の舞台を観ない方々」が舞台を観に行きたくなっていただければ幸いです。

はらぺこペンギン!の名前は古い知り合いが衣裳を担当していたこともあって聞いたことがありましたが、観ることになったのは昨年が初めてでした。それも昨年ちょうど今回と同じ時期に上演されたプロデュース公演ではらぺこペンギン!の主宰である白坂くんに作・演出してもらっていたのがきっかけで観に行った劇団旗揚げ十周年記念公演という「お祭り」的なものしか観ておらず、とても楽しませてもらったんですけど作品の傾向までは把握していませんでした。

彼の作劇方法は企業秘密的なところもあるので公開しませんが、過去の作品の話などを聞いて、なおかつ今回の作品に参加して思ったのは「人間賛歌」な作品を上演する劇団なのではないかということでした。

一部のお客様には受け付けにくいホモ・レズを登場させたギャグ・シーンや、カタコトの日本語を話す中国人の不法滞在者や、今回主役に据えた知的障害者のカップルなど、ともすれば扱いづらいと思われるキャラクターを恐れることなく前面に押し出しています。彼らもまた「普通」の人間であり、ひとつの「個性」にすぎないんです。ですから、このお話は主役がただの貧しい家に育ったカップルだったとしても成立できない話ではないんです。でも、人の個性というものは時として社会的な「障害」と見なされてしまうことも日常多々あります。それを多くの人が「普通」とみなす人たちが物語を進めたところで、単なる「お涙頂戴話」で終わってしまいかねません。

今回の作品で容赦ないのは、市民の耳目を操作するメディアが偽善の象徴であることをこれでもかと表現しているところです。メディアを悪者にすることもできますが、そこにはやはり経済的なことが関わってきて「生活するためには目隠しすることも止むを得ない」という人間心理的な負の部分を浮き彫りにさせています。

そこに「挑戦状」を叩きつけて自らの人生を切り拓いていく主人公たちと、それを支える天使となった家族たちの愚直なまでの「純粋さ」に、観ている人たちは心を動かせるのではないでしょうか。

演出的な部分で一番印象に残っているのは劇中で朝日一家が歌う歌です。あれは稽古場で初めて聴いた時から涙を堪えるのに必死でした。とても効果的に使われていたと思います。歌の力は大きいですけど、どれだけ良い歌であってもズレたタイミングで歌われてもまったく心に響いてこないものです。はらぺこペンギン!は作・演出はもちろんのこと、劇団員もバランスがとれていて、客演としても参加しやすい劇団だと思いました。

十数人登場している役者の見せ場もきっちり確保しつつ、無駄なシーンはばっさりカットして、常にお客様がどうしたら楽しんでもらえるかを全員で考えている現場というものは、当たり前のようでいてなかなかできていない劇団も多いかと思います。自分が参加したから言うわけではないですが、こういう劇団がもっとメジャーになれば世の中楽しくなっていくんじゃないかなとまで思います。次回呼んでもらえるかはわかりませんが(客演は常に新しい人材を呼んでいるらしいので)観客になっても観続けていきたいですし、もっといろんな人に観ていただきたいです。

今年最初に出た舞台がこの作品で本当に良かったです。私もいい歳になってきましたが、益々張り切っていきたいと思います!

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